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大阪高等裁判所 平成11年(ネ)3149号 判決 2000年1月26日

控訴人

青柳和久

被控訴人(原告)

平田佳一

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求める裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

控訴棄却の判決。

第二事案の概要

事案の概要は、次のとおり付け加えるほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決二頁二五行目の「12月10日」を「12月16日」に改め、三〇行目の「用廃(」の次に「特に第二指PIP関節に著名な可動域制限。」を、同行目の「短縮(」の次に「一センチメートル。」をそれぞれ加える。

2  同三頁七行目から一一行目までを次のとおり改める。

「(2) 争点に対する当事者の主張

(控訴人)

以下の点に照らすと、被控訴人にも大きな過失があり、その過失割合は五割を下らない。

ⅰ 本件道路(南北道路の北行き車線)は、二車線道路である。控訴人車両は右二車線のうち外側車線(以下「第一車線」という。)を走行していたが、被控訴人車両は、第一車線より更に外側にある路肩部分を走行していた。そして、本件道路の路肩は、車両が走行すること自体は禁止されていないが、本来走行すべき部分ではないから、路肩を走行する車両は、本来の車線を走行する車両に対し劣った立場に立ち、本来の車線を走行する車両の妨げにならないようにする高度の注意義務があるというべきである。したがって、通常の走行車線を走行していた控訴人は、路肩を走行していた被控訴人車両に対しては、通常の走行車線を走行する車両に対するのと同様の注意義務は負わない。

ⅱ 控訴人は、別紙交通事故現場見取図(以下「本件見取図」という。)表示の<1>点で左折合図を出し、減速しながら第一車線内を徐々に左側に寄り、本件見取図表示の<2>点で初めて路肩に出た。そして、路肩に出るとき左後方の安全確認をしたのであり、運転技量が未熟であったため、控訴人車両が<1>点で左折合図をし、左に寄る気配を示したのを見ただけで、あわてて急ブレーキをかけたため、自ら本件事故を発生させた。

ⅲ 被控訴人車両の速度は制限速度(時速五〇キロメートル)を超えていた。

(被控訴人)

被控訴人に過失はない。

ⅰ 被控訴人車両は路肩を走行していたが、本件道路には、車道との間に段差があり、柵で保護された歩道があるから、車両制限令九条の解釈上走行が許されるところである。そして、路肩を走行する車両が本来の車線を走行する車両に比して劣った立場に立つということはない。

ⅱ 控訴人車両は、<1>点で左折の合図をせずに路肩側に幅寄せを始め、<2>点より相当手前で路肩に入り込み、<2>点で左折合図を出すとともに急に左折をした。そのため、被控訴人は、<1>点で既に危険を感じ急ブレーキをかけざるを得なかった。本件事故は、本件事故現場付近に不案内な控訴人が、転回するのに適した場所を探して路外に注意を向け、漫然と左に寄り、右のとおり<2>点で路外駐車場への乗り入れを決意し、左折合図を出して急激に左へ進路を変えたために生じたものである。

ⅲ 被控訴人車両の速度は制限速度以内であった。」

第三当裁判所の判断

一  本件事故態様(過失割合)について

1  証拠(甲二、八、九の一~一三、乙一、控訴人、被控訴人各本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 本件道路は、大阪府道一三号線であり、本件事故現場の約三〇〇メートル先に同一五号線と直交する交差点があるが、本件事故現場付近には交差点はない。本件事故現場付近では、ほぼ直線で、見通しは良好である。最高速度は時速五〇キロメートルに制限されている。北行き車線は二車線(一車線の幅員三メートル)であるが、二車線のうち外側車線の左端寄りには、白色破線で区画された幅員約一・五メートルの帯状部分がある(以下この部分を「帯状部分」という。右帯状部分の性質については後に見るとおりである。)。本件事故現場付近は道路沿いに建物が建ち並んでいるため、控訴人が後記のとおり進入しようとした駐車場は、ある程度近寄らないとあることが分かりにくい。また、帯状部分の外側には歩道があり、歩道と帯状部分との間には段差があり、歩道に沿ってガードレールが設けられている。

(二) 控訴人は、金物屋で買い物をするため、本件道路の北行き第一車線を走行して本件事故現場付近に差し掛かったが、金物屋を通り過ぎたため一旦路外に出て転回しようと考えた。そして、時速三〇キロメートルくらいの速度で走行し、本件見取図の<1>点手前まで来たとき、前方<2>点の左側路外に駐車場があるのを認めたので、ガードレールの切れ目からそこに入るため、<1>点辺りから減速しながら第一車線を走行し、<2>点の少し手前で左折を開始し、帯状部分に進入した。

(三) 被控訴人は、自動二輪車である被控訴人車両を運転して、北方向に帯状部分を走行していたが、被控訴人車両の速度が控訴人車両の速度より少し速かったため、次第に控訴人車両に接近し、控訴人車両が<1>点辺りに来たときには、その左斜め後ろ数メートルのところにいた。

(四) 被控訴人は、<1>点辺りまで来たとき、右のとおり<2>点の少し手前で帯状部分に進入して来る控訴人車両と衝突する危険を感じ、<1>点辺りで急ブレーキをかけ左に寄ったが、本件見取図表示の<×>1点で前記ガードレールに接触し、歩道上に投げ出された。被控訴人車両は無人で進み、<×>2点で控訴人車両左前ドア辺りに被控訴人車の前輪部が衝突し、被控訴人車両は、間もなく転倒して本件見取図表示のとおり擦過痕をつけながら滑走して<ウ>点で停止した。控訴人車両は<4>点辺りで停止した。控訴人は<2>点辺りで進入を開始する直前まで、被控訴人車両が左後ろを右のような態様で走行していることに気付かず、右地点でサイドミラーを見て初めて被控訴人車両がすぐ近くにいることに気付いた。

関係地点の位置関係及び距離は、おおむね本件見取図表示のとおりである。

2  控訴人の供述中には、控訴人は<1>点でウインカーにより左折合図を開始したという部分がある。しかし、控訴人及び被控訴人各本人尋問の結果によると、控訴人車両が<2>点に近づいていたころには左折の合図をしていたことを認めることができるが、被控訴人の供述に照らすと、<1>点で既に合図を始めたとまで確認しがたく、本件証拠上、<2>点の少し前よりどの程度前に合図を開始したか確認することは困難である。

控訴人の供述中には、控訴人は<1>点辺りで左サイドミラーで後方を確認したところ、被控訴人車両が二〇メートル以上後方にいることを確認したという部分がある。しかし、控訴人は<2>点まで減速しながら走行し、<2>点で進入を開始したのであるから、被控訴人車両が右のような位置関係にあったとすると、控訴人車両が<2>点で被控訴人車両の前を塞ぎ、進路を妨害するだけでなく衝突する危険が極めて大きい。控訴人がそのようなことを承知のうえで右のように進入したとは到底認めがたいのであり、その他に控訴人は衝突する直前まで被控訴人車両に気付かなかったと供述していることと併せ考えると、控訴人は、左後方の安全確認をしないまま<2>点の少し手前に至り、そこで進入を開始し、衝突直前に被控訴人車両に気付いたと認めるのが相当である。

控訴人は、被控訴人車両は制限速度である時速五〇キロメートルを超える速度で進行していたと主張する。しかし、右主張に沿う証拠のうち、控訴人本人の供述は特段の裏付けがあるのではないから採用することができない。また、乙二号証は、時速五一キロメートル程度であった可能性があることを示すものであるし、採用されている摩擦係数が正当かどうか確認しがたいから、控訴人主張の裏付けとして重視することはできない。

控訴人は、帯状部分は路肩であるところ、路肩を走行する車両は普通以上の注意をする義務があり、他方、その他の車両は路肩走行車両についてはそうでない車両ほどには注意をする義務がないと主張する。そこで、検討するに本件道路の状況は前記認定のとおりである。そうすると、帯状部分は歩道の設けられている道路に設けられているのであるから、道路交通法二条一項三号の四に規定する路側帯には該当しない。したがって、帯状部分は、同法一七条一項により車両の通行が禁止されている部分に当たらないのであるが、これが、道路構造令二条一〇号及び車両制限令二条七号に規定する路肩であるのか、道路構造令二条一二号、同九条に規定する停車帯であるのか、あるいは、道路交通法二条七号(同法施行令一条の二第四項三号)に定める車両通行帯に該当するのかは、必ずしも明らかではない。しかし、証拠(甲二、九の一~一二)によると、帯状部分は、前記のような狭い幅員であるのみならず、車両通行帯とは異なる白色破線で区分されていることを認めることができるから、これを独立の車両通行帯と認めるのは困難である。

ところで、道路には車道に接続して路肩を設けるものとされているが、ただし、中央帯又は停車帯を設ける場合においては、この限りではない(道路構造令八条一項)。そして本件道路は、都市部における高速自動車国道及び自動車専用道路以外の道路であり、大阪府道であるから、第四種道路のうち第一ないし第三級のいずれかに該当する(同三条)ところ、その場合の路肩の幅員は〇・五メートル以上とされている(同八条二項)。これに対し、停車帯は、第四種(第四級を除く。)の道路の車道左端寄りに設けられるもので、その幅員は、原則として二・五メートルであるが、自動車の交通量のうち大型の自動車の交通量の占める割合が低いと認められる場合においては、一・五メートルまで縮小することができるとされている(同九条)。そして、車道外側線は、道路鋲による場合を除き、白色の実線で標示されることになっている(道路標識、区画線及び道路標示に関する命令五条、別表第三(103))が、帯状部分は、車両通行帯と白色破線で区画されている部分であるから、車道の内側である。以上によると、右部分は、路肩ではなく、車道の一部である停車帯であると認めるのが相当であると考えられる。そして、車両が停車帯を走行することを禁止する法令は見出しがたい。なお、これを路肩であると解したとしても、その更に左側に歩道がある道路では、路肩走行自体が法令により禁止されているわけではないから、停車帯と同様に考えることができる。

右のとおりであり、いずれにしても、被控訴人が帯状部分を走行してはならなかったということはできない。そして実状を見ると、証拠(甲九の一~一二、被控訴人本人)によると、前記帯状の部分は、前記のとおり幅員が約一・五メートルあり、路面も舗装され、おおむね平坦であって特段の障害物もないから、自動二輪車であれば走行が困難ではなく、実際に帯状部分を走行する自動二輪車が少なくないことを認めることができる。そうだとすると、帯状部分は、もとより通常の走行用車線とは異なるから、ここを走行する場合には走行用車線を走行する車両から見落とされがちであることに留意して慎重に走行することを要するというべきであるが、それとともに第一車線を走行する車両の運転者は、帯状部分を走行する自動二輪車があることを予測して運転する必要があるというべきである。したがって、被控訴人車両が帯状部分を走行していたことは、過失相殺について考慮すべき事由であるというべきではあるが、本件では、これをあまり重くみることは相当でないというべきである。

3  以上によると、控訴人は、第一車線から帯状部分に進入するに当たっては、左後方から走行してくる自動二輪車の有無を確認し、その通行の妨げにならないよう注意する義務があるのに、これを怠り、右確認をしないまま左に寄って進入を開始した過失により、被控訴人車両の通行を妨げ、急ブレーキをかけ左に寄ることを余儀なくさせてガードレールに衝突させ、被控訴人に前記傷害を負わせたものであるから、控訴人に著しい過失があることは明らかである。

他方、前記認定の事故態様に照らすと、被控訴人は、帯状部分を走行する自動二輪車の運転者として、走行車線前方を走行する車両の動静に注意し、特に前方直近右側の走行車線を走行する車両の動静に注意するとともに、十分の車間距離を空けて走行すべきであったところ、これを怠り、漫然控訴人車両のすぐ後ろを走行した点で過失があるといわざるを得ないから、この過失は損害の額を定めるについて斟酌すべきである。

そして、以上によると、控訴人と被控訴人の過失割合は、八対二と認めるのが相当である。

二  損害について

原判決五頁二九行目から同六頁一行目までの理由説示と同じであるから、これを引用する。

三  結論

以上によれば、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担について民訴法六七条、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 加藤英継 伊東正彦 大塚正之)

別紙 交通事故現場見取図

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